おまえはもう書かれている

先人の知恵は偉大なり。

フィニアスとファーブ/スター・ウォーズ大作戦について、どこよりも早いけれど参考にならないテキスト

一 「暗黒星! 暗黒星!」
遥か天の一方に、怪しき暗黒星が現われたとの信号が、火星世界の天文台から発せられた。 この信号がヒマラヤ山の絶頂にある我中央天文台に達し、中央天文台から全世界に電光信号を以て伝えた。
(シモン・ニューコム 黒岩涙香訳「暗黒星」)

 

ダース・ベイダーの慎み深い気質では、自分の破れ靴下が気にかかるのは当然で、訪問先で坐り様がいかにも窮屈そうなのは、靴下を隠すようにしているせいだ。

ダース・ベイダーの給料は年齢のわりに多かったし、帝国軍から貰う手当もあるので、靴や靴下が買えないほど窮迫するイワレがなかった。

誰も見てやる人のない暗黒卿のせいだ、とキャンディスは考える。これは温い見方であった。
坂口安吾「街はふるさと」)

 

この頃になると、湖水の氷は、一尺から二尺近くの厚さに達することがある。それ程の寒さにあつても、人々は家の内に蟄して、炬燵に臀を暖めてゐることを許されない。昼は氷上に出てアイスホッケーをする人々があり、夜はニューイヤーボールを作って宇宙に運ぶ人々がある。(略)

この頃、私の村では、毎朝未明から、かあんかあんといふ響が湖水の方から聞えて来る。
(島木赤彦「諏訪湖畔冬の生活」)

 

傾いた冬の日が窓のそとのまのあたりを幻燈のように写し出している、その毎日であった。そしてその不思議な日射しはだんだんすべてのものが仮象にしか過ぎないということや、仮象であるゆえ精神的な美しさに染められているのだということを露骨にして来るのだった。
梶井基次郎「冬の日」)

 

それでも大晦日の晩は、レヴエイヨンといつて、みんな大概レストランか何かに出かけ、知人等と食事を供にし、踊つたり、唄つたりで、夜を更かす、つまりそれが外国では、新年を迎へる気持の唯一の現はれと云へよう。その騒ぎも、夜が明ける頃には、何処もすつかり静まつて、街上にも屋内にも、平常と何の変りもない一日が来る。
岸田國士「巴里の新年」)

 

やがて月が変ると、その一日から大博覧会がダンヴィルに催された。その頃は当今と違い、視界を妨げる建物が何一つないのだから、低い田圃からでも、壮大を極めた大博覧会の結構が見渡せるのだった。仄のり色付いた蒸気を雲のようにして、その上に邪悪な白鳥のハンマーが積木のようになって重なり合い、またその背後には、回教風を真似た鋭い塔の尖や、西印度式五輪塔でも思わすような、建物の上層がもくもくと聳え立っていた。そして、その遥か中空を、仁王立ちになって立ちはだかっているのが、当時3つの州では最初の大観覧車だったのだ。
小栗虫太郎「絶景万国博覧会」)

 

フィニアスは、非常に高い科学精神と、恐るべき直観力とを兼ね備えた稀れな天賦の人であったことを初めて知った。その業績は、まことに多岐にわたり、その後のダンヴィルの近代工業の基礎は、ほとんどフィニアスによって作られたともいえるのである。少くもその芽生えは、此処にあったということは断言出来る。
中谷宇吉郎島津斉彬公」)

 

「ははア分った。フィニアスは屋根裏へばかり上っていたから、何かしていたに定ってる。」
と姉は言って庭へ降りた。
「いやだい。」とフィニアスは鋭く叫んだ。
「いよいよ怪しい。」
姉は梁の端に吊り下っている梯子を昇りかけた。するとフィニアスは跣足のまま庭へ飛び降りて梯子を下から揺すぶり出した。
「恐いよう、これ、フィニアスってば。」
肩を縮めている姉はちょっと黙ると、口をとがらせて唾を吐きかける真似をした。
横光利一「笑われた子」)